速度と仕事の不思議な関係
翻訳者としての道を歩み始めたばかりの人から、仕事を継続的に得るにはどうすればよいかと聞かれることがよくあります。答えは簡単で、ほんの少しだけ勢いをつければよいのです。
何に勢いをつけるかというと、時間の使い方と物事に対する捉え方(気持ち)です。勢いのある人はいわゆる人間力が高くなり、結果として顧客満足度が高まるからでしょうか。これといった営業活動をしなくても、人が人を呼んで取引先が増え、信頼が信頼を呼んで仕事の打診も増えていきます。
こういう話をすると、オーバーフローは時間の問題ではないかと思う人がいるかもしれません。でも、一から十まで受けようとするから無理が生じるのであって、受けられない仕事はすべて断れば、オーバーフローすることもないはずです。
理屈の上ではそうかもしれないけれど……。おそらく次にくるのはこれでしょう。
あまり断り続けると仕事がこなくなるのではないか、という不安ですね。初心者に多い悩みのひとつですが、断って仕事がなくなるとすれば、それは断る行為そのものではなく断り方のほうに原因があるというのが私の持論です。
実際には、やり方さえ間違えなければ、いくら断っても以後の取引には影響しないのです。このあたりのバランスを取る上でも、自分自身の勢いは非常に重要ですね。
そしてこの勢いをつけるには、自分自身のスピードをほんの少しだけ上げるだけでよいのです。無理をする必要はありません。少しで十分です。
おもしろいもので、こうした勢いがつくと仕事は次から次へと舞い込み、私生活など仕事以外のことにも好循環が生じます。そうすると日常生活のちょっとしたことでもスピードが上がり、いつのまにか大きな差となって表れてくるのです。
昨今、速いモノには間違いなく需要があります。「こだま」よりも「ひかり」、「ひかり」よりも「のぞみ」の新幹線。翌朝配達よりも即日配達の宅配便。アナログよりもデジタル、デジタルよりも光のインターネット接続。こうした速度に対する需要があるのは、なにも市場に出ている商品だけに限りません。
空前の人材不足と呼ばれる翻訳業界にあって、仕事の速い翻訳者は皆さんが思っているであろう以上に強く求められています。当然、処理速度が高くなればなるほど、業界で必要とされる場面も増えていきます。必要とされる場面が増えれば、おのずと仕事は流れてきますから、あとは放っておいてもうまく回りはじめるでしょう。
もしかしたら、速度を上げるとミスが増えるように感じる人がいるかもしれません。でも、ミスが出るのは速度の問題ではなく意識の問題です。翻訳会社のコーディネータなどに話を聞くとよく分かるのですが、「ミスを極力減らすにはどうするか」を常に考えて仕事をしている人は、速度を上げてもミスが増えることはありません。そのときどきの速度に合わせて、ミスを増やさない工夫をしているからです。
むしろ問題なのは「急ぎなのだから間違いがあって当たり前」といった考え方でしょう。「面倒だけれど仕方がないからやるか」といった後ろ向きな姿勢です。人間の脳は、明確な目的を持った瞬間からその目的に向かって最善の選択をするようにできているそうですから、しっかりした姿勢でいれば少しくらい速度を上げてもミスは増えません。
いずれにしても、ちょっぴり速度を上げるだけならノーリスクです。
気持ちを引き締め、できるところから少しずつ速度をあげていけばいいのですから、それほど難しいことではないかと思います。頑張ってください。
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