「置き換え」の意味

辞書パックを使い始める前から原文を部分的に一括置換して翻訳をしてきた人が、自分ではそれを手抜きと思っていたと話していました。実際、語句の一括置換を利用する翻訳のやり方を「単なる置き換え」と評し、こんなやり方で正しい翻訳ができるはずがない、あるいは原文の内容に対する理解が浅くなるといった考え方をしている翻訳者は昔から少なからぬ数でいるようです。

これもひとつの価値観ですから、特に否定するものではありません。ただ、翻訳の原稿にしろ書店で販売されている書籍にしろ、およそすべての著作物は最初から最後まで一字一句をすべて読んで理解させるようにはできていないことは、ぜひ知っておいて欲しいと思います。

一説によると、著作物を文字単位でみたときに、本当の意味で重要な文字列は全体の1〜2割程度にすぎないそうです。つまり、細心の注意を払って脳にインプットしなければならない情報はせいぜい全体の2割で、残りは「認識」できてさえいればよいことになります。

この違いを区別せずに翻訳をしていると、かけなくてもよい労力や時間をかけることになり、それが精神的・肉体的疲労を生んで品質や速度を落とすという悪循環に陥ります。

置換を利用する翻訳が、単なる置き換えの無意味な作業になるか、非常に有意かつ生産的な作業になるかは、何を置換して何を残すかの区別ができるかどうかで決まります。同様に、置換によって内容理解に悪影響が及ぶか、あるいは有利な成果を生み出せるかも、何を置換して何を残すかによって決まります。

そもそも、翻訳というのは単語を単語に置き換える作業ではなく、原文のもつ情報を他の言語で表現する作業なのです。闇雲に何でも置換したりせず、翻訳の速度と品質を向上させられるように置換を利用すれば、置換を利用せずに翻訳する場合よりも綺麗な日本語で正しい翻訳ができるようになるのです。

特に、頭から翻訳をしているときには見落としがちな不定冠詞の含みや助動詞のニュアンスの差など、置換を取り入れるからこそ細かいところに目が行き届くようになり、より一層綺麗な訳文を作る余裕が生まれます。

繰り返しますが、置換をするかどうかが問題なのではなく、何をどう置換してどうやって翻訳文を作っていくかが問題なのです。

つい数時間前、公開当初に辞書パックを購入なさった方から「スピードも翻訳精度も上がり、受注先も増えた」というメッセージが舞い込みました。もし単なる手抜き作業にすぎないのだとしたら、既存取引先から仕事を止められることはあっても、新規顧客を増やしていくのは難しいでしょう。実際にやってみた人たちが次々と新しいステージに進んでいることからみても、決して粗い作業ではないことは断言できます。

大切なのは「区別」だということを念頭において、自信をもって取り組んでみてもらえればと思います。

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