時間密度
翻訳者としてのスキルアップを目標にしている人から、参考になる書籍はないかと聞かれることがよくあります。彼らは翻訳雑誌や翻訳に関する本はおおむね読んでいるのですが、それでは満足できずに他の資料を求めてくるのです。
このような場合、気持ちを切り換えて翻訳とはまったく関係ない本からヒントを得る方法があります。たとえば、『だから、「仕事がうまくいく人」の習慣』という本に、仕事で最大効果を生む12の法則を記した章があります。この12の法則とは次のとおりです。
1. 仕事のやり方を継続的に改善する
2. 道具の保管場所を決め、身の回りを整理する
3. 使ったものは、もとの場所に戻す習慣をつける
4. 「やるべきこと」は記憶せずにメモしておく
5. 作業別に制限時間を設け、時間内に終わらせる
6. 目標を設定すると「やる気」に差がつく
7. 行動を起こすために明確なイメージを持つ
8. 最初に計画をたてて、さっさと終える!
9. 人生の最優先事項は何か?
10. 目標達成までに必要なものは「やり遂げる」ねばり強さ
11. まわりの人材に目を向け、仕事を任せる
12. 「すぐやる」習慣を身につける!
この本のテーマは翻訳ではありませんが、スキルアップを図るのであれば時間密度を高めることは不可欠です。ここでいう時間密度の高さとは時間の使い方のことで、それがどのようなことであれ時間密度の高い人ほど経験や学びの場数が多く、結果として短期間で力を伸ばせることになります。
たとえば、4番の「メモする」習慣。メモをするという行為は「余分な作業」になるため、積もり積もれば時間のロスになるように感じる人もいるかもしれません。でも、メモがないと脳が「やるべきこと」を覚えているのに手一杯になり、本来集中しなければならない仕事がおろそかになります。本人が意識するかしないかは別にして、翻訳文の品質や情報収集の精度などにその違いが表れてくるのです。
「すぐやる」ことについても同様です。細かい作業はパラパラとやるよりも一度にまとめてやる方が効率が良いように思えても、実際には一定量を超えると逆に非効率的になります。たとえば、新聞を読まずに1週間ほどためておき、週末なら週末にまとめて読むことを考えてみてください。3日分くらい読んだところで疲労感が生じ、そこから先は集中力が落ちる一方になります。
翻訳も同じで、同じ作業をあまり続けすぎるのではなく、適当に違う作業を織り込んでやる方が結果としてうまくいくことはよくあります。パソコンとの二人三脚で自動・半自動・手動の工程をランダムに行うと、従来のように上から順に訳すときより品質の低下を防ぐことができるのも、これと同じ理由によるものです。
以上はほんの一例ではありますが、翻訳のスキルアップを目指すからといって、そのために有用な情報が翻訳関係の書籍にしか載っていないわけではありません。およそどの職業にも共通して当てはまるテクニックや論理はありますので、いわゆる成功本に類する書籍なども読んでいろいろ試してみるとよいでしょう。
あるいは、たとえば睡眠時間を1.5時間サイクルにコントロールするといった習慣も時間密度を高める上では意外に有効です。これなどは、人間の脳や体の仕組みについての本に触れると気付くヒントですね。要するに、スキルアップをしようという目的意識さえ忘れなければ、有用なヒントは思った以上にたくさんあるということです。インターネットや図書館を活用して、ぜひ自分だけのスキルアップスタイルを確立してみてください。 |
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