専門書の上手な読み方
フォトリーディング・ホール・マインド・システムについて記した書籍『あなたもいままでの10倍速く本が読める』の第10章に、シントピック・リーディングという手法が紹介されています。syntopicすなわち同じトピックに関する本を一度に数冊読むことで、そのトピックに関する理解度を上げる方法です。このシントピック・リーディングがひとつの読書テクニックとして世に出たのは、Mortimer Jerome Adler著『How to Read a Book』(※1)が最初だと言われています。初版は1940年ですから、かれこれ60年以上も前になります。
シントピック・リーディングを活用すると、1冊の本を読んだだけではほとんど理解できないような内容でも、かなりの確率で理解できるようになります。実は、私は翻訳者になったばかりの頃からずっと、翻訳時の調べ物にはシントピック・リーディングを使ってきました。知らない単語や意味の分からない文に遭遇したとき、それに関する情報を複数の資料から得るのです。
このときに重要なのは、純粋に訳語が分かればよい場合であっても、見出し語+訳語だけが載っている辞書で終わりにしないことです。辞書は最低でも簡単な語義説明が載っているものを(できれば複数)使い、見つけた訳語に関する技術資料を最低でも3〜5種類ほど読みます。
資料の種類としては、英語と日本語の両方の専門書、学術論文、特許公報などを幅広く利用するとよいでしょう。なぜかというと、たとえば専門書と特許公報では対象とする読者層が違います。読者層が違うということは読者に対して想定される知識レベルも違うため、説明の仕方や切り口が少しずつ違うのです。
また、一般に専門書は和書よりも洋書の方が(言語の構造上)丁寧に説明されていることが多いのも事実です。いずれにしても、書かれている言語や資料の種類が異なることは、シントピック・リーディングを行う上で非常に好都合です。
ここで、翻訳のためにシントピック・リーディングを行うときは、集めた資料を最初から最後まで読み通す必要はありません。調べている語句や技術に関する部分を数行あるいは1〜2段落程度読めば十分です。資料によっては、抜粋読みでは正確な理解を得られないこともありますが、このようなときも気にせず他の資料をあたってみましょう。
ひとつの資料を読むのに時間をかけるくらいなら、異なる資料をできるだけ数多く読む方が効果的です。このようにすると、数が増えるにつれて断片的な知識が有機的に結び付き、それまで漠然としか分からなかったことが突然分かるようになります。
つまり、上手なシントピック・リーディングのスキルを身に付ければ、まったく知らない内容に関する原文も正しく訳すことができます。よく産業翻訳には専門知識が不可欠といわれますが、専門的な資料を正しく活用できれば必ずしも翻訳に着手する時点で専門知識がなくてもよいことは、十分にお分かり頂けるかと思います。
ただし、仕事で翻訳をする以上は常に時間との闘いになります。限られた時間の中で最大限に多くの資料を読むためには、(1)ほかの作業工程におけるロスを可能な限り減らし、(2)必要な資料を短い時間で確実に取得できるようにすることが大切です。(1)についてはパソコンとの役割分担である程度まで解決できますが、(2)は検索の腕に大きく依存します。検索の腕を上げるためには、情報処理能力と整理整頓のスキルが必要になってくるのですが、これについては次回以降に譲ることにして、まずはシントピック・リーディングをできるだけ多く翻訳作業に取り入れてみてください。
(※1)『How to Read a Book』の第20章「THE FOURTH LEVEL OF READING」にsyntopic readingについて説明があります。p.309〜336です。
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