| お金と英語の非常識な関係(上) (ISBN 4894511711)
翻訳をビジネスと考えて成功のヒントを得たい人は全部を読んでもよいかと思います。
この場合、p.1の「著者からのメッセージ」に従えば1冊30分もあれば読破できます。一方、特定分野の翻訳者として力を伸ばしたいのであれば、p.2の「わたしは英語ができない」に目を通した上で第2章に進むとよいでしょう。できれば第2章をひととおり読むとよいかと思いますが、時間がない!という人のために翻訳者としてスキルアップするヒントを拾っておきます。
p.107に「最短時間で、英語を流暢に話せるようになるためには……「捨てること」が大事」だとありますね。実は翻訳にもまったく同じことがあてはまるのです。特に産業翻訳の場合、短期間でスキルアップするためには「捨てること」が不可欠です。では何を捨てればよいかというと、p.109を見てください。次の6項目があげられています。
1 日常会話を捨てる
2 専門外のトピックを捨てる
3 単語力を増やすことを捨てる
4 文法的に正しく話すことを捨てる
5 ペラペラしゃべることを捨てる
6 キレイな発音を捨てる
産業翻訳では1〜3が極めて重要です。ここを間違ってしまうと、満足できるレベルに到達するまでに不必要に時間がかかってしまいます。翻訳者には語学力が必須だと信じて英語を勉強しても、それが学校での英語学習の延長である以上は時間の無駄でしかありません。また、英検やTOEICのための勉強もほとんど無意味だと思ってよいでしょう。
もちろん、企業によってはこうした資格試験の級を書類選考の基準にしているところもあるため、英検準1級とかいった資格があれば選考時に有利に作用することはあるかもしれません。ただ、実際に翻訳をするという視点でみたときには、いくら英検でよい成績をおさめていても役に立たないことがほとんどなのです。
実際、英検の問題集を見ても産業翻訳で出てくるような単語やフレーズにはめったにお目にかかりません。翻訳だけで食べていきたいと思うのであれば、学校の延長である英語学習や資格試験対策に時間を割くのはやめる方が賢明です。
たしかに、それがどの分野であるにしろ翻訳をするためには一定の語学力は必要です。でも、この語学力を巷に出ている問題集や参考書で身に付けようとすると、とてつもなく膨大な時間とエネルギーを使わなければなりません。自分が英語を使って何をしたいのかをよく考え、捨てるべきものを上手に捨てることが上達への早道なのです。
ここで告白しておくと、翻訳者として独立したばかりの頃の私は英語がほとんど話せませんでした。昔から外国語は好きでしたが、中学高校時代の英語の成績はそれほど良かったわけでもなく、実用英検も3級どまりです。また、翻訳を学んだ経験があったわけでもありません。それなのに営業ゼロであっと言う間に仕事があふれるようになったのは、無駄な英語を徹底して捨てたからです。代わりに、英文の特許明細書や洋書の専門書、論文、パンフレットなどは仕事を受けるたびにそれこそ膨大な量で読んできました。仕事をしながら英語で専門技術を学び、同時に英語力も飛躍的に伸びていったのです。
受注する分野を限定していなかったこともあって、仕事のために読んだ内容は多岐にわたります。そのうえ量が半端ではないため、技術寄りの内容なら英語のテレビ番組を字幕なしで理解したり、ネイティブと議論したりできるようになりました。ですが、いわゆる日常会話について言えば、自分で言うのも何ですがお粗末なレベルだと思います。ネイティブと意志の疎通を図るのがやっとで、ボキャブラリは少ないし発音もお世辞にもキレイとは言えません。これでも翻訳なら何ヶ月も先まで予約待ちで行列ができるのです。
この経験から言えることは、英語ができるようになったら翻訳者になると言っていると、一生かかっても実現しない可能性があるということです。実際、私が過去に見てきた翻訳志望者の大半は、翻訳学校などで教えている「広く浅い」学習が呪縛となって、せっかくのスキルを伸ばすことができずにいました。本当にもったいないことだと思います。
英語全般ができるようになる必要などこれっぽっちもありません。自分のやりたい分野に必要な英語だけで十分です。それだけにエネルギーを集中投下すれば、1年で引っ張りだこになるのも決して夢ではないでしょう。とにかく「捨てる」ことです。
最後に付け加えておくと、「捨てる」ことは学びのための時間を作るためにも重要です。特定の分野に特化すれば時間的に十分なのかというと、そうとは限りません。できるだけ学びの時間を増やすために、仕事で行う作業の中から無駄な時間枠を「捨てる」ことも必要でしょう。
私は確かに無駄な英語を捨てて一気にスキルを伸ばしましたが、同時に作業の無駄も可能なかぎり捨ててきました。「コンピュータでも人間と同じもしくは人間以上の結果を出せるもの」をコンピュータに任せるのは、「捨てる」ことの裏返しです。こうして生まれたのがパソコンとの役割分担による翻訳ノウハウです。 |