特許事務所での新発見(2)

「ほうたいは、怪我したときに使う"包帯"じゃぁなくて"包む"っていう字と"袋"で"包袋"、テープの色は、赤がアメリカで青がイギリス、黄色がフランス、緑がドイツでいいんでしたっけ?」夏子は山岡に確認した。
「そう、あってるわ。もし分からなくなっちゃったら、中からレターを出してみれば代理人の住所が書いてあるから分かるけど、新しい包袋を作るときに夏子ちゃんにテープ貼ってもらうことになると思うから、覚えておいてね。」
夏子にとっては仕事そのものだけでなく周囲で使われている言葉自体が新しいものだらけだったが、この「ほうたい」が一番の驚きだった。これだけは絶対に忘れないだろうと思いつつ、山岡に教えられた通りコピーを取った書類を持って包袋がしまってあるキャビネットをまわり、コピーを各件ごとの包袋に入れていった。ファイル番号が同じでも、国ごとに包袋が違うので気を付けなければならない。夏子は、ファイル番号ごとに代理人の名前を確認しながら、ていねいに書類を片づけていった。

コピーの片づけが終わると、次はオリジナルを「もちぬし」に送らなければならない。でも、どれをどこに送ればいいのかレターからは分からなかった。「山岡さん、書類を送ろうと思うんですけど、送り先の住所教えてもらえます?」夏子が聞くと山岡は、「これを使ってね」とB5版の紙を3枚ほどくれた。
「この一番左側がうちのファイル番号。お客さんごとに別の記号がついているから覚えてね。ST-は○○電気株式会社さん、GT-は××通信株式会社さん、FP-は株式会社△△工業っていうふうになってるの。」そこに並んでいる名前は、日本を代表する超大手企業ばかりだった。
「書類を記号ごとに分けて、ここに書いてある送り先に郵送してあげてね。あと、書類送付状を付けるのを忘れないようにしてくれる?送付状はここに入っているから。」
「同じ記号のものをまとめて、書類送付状を書いて、それで郵送すればいいんですね?」
「そう、分からないことがあったらまた聞いてくれていいから。」
夏子は言われた通りにまず書類を記号ごとに分けて送付状を書き、大きな封筒を持ってくると山岡にもらった住所録の通りに宛名を書いた。
「○○電気株式会社知的財産部、渡邊様っと。」
最初の1枚を書いて気づいたのだが、会社によって送り先が知的財産部だったり特許部だったりしている。
「山岡さん、特許部と知的財産部って何か違うんですか?」
「やってることは同じよ。昔は特許部が圧倒的に多かったんだけど、最近になって大手企業を中心に特許部が知的財産部に変わったところが増えているの。会社によっては、法務部とか海外事業部なんかで特許部と同じような仕事をしているところもあるんだけど、出願数の多いところはたいてい知的財産部か特許部のどちらかよ。知的財産部のことを私たちは知財部って呼ぶから覚えておいてね。」

「知財部、ですね。それともう1つあるんですけど、このG-番号がついているのは○○電気さんと○△エンジニアリングさんと2つ書いてありますけど、どっちに送るんですか?」
「あ、それは共願で○○電気さんがオリジナル、○△エンジニアリングさんはコピーでいいの。」
「共願って何ですか?」
「共同出願のことよ。特許出願は必ずしも1件あたり1社とは限らないの。時には、複数の会社が共同開発したものなんかを出願することがあって、そういうときは共同で出願するのよ。費用は、折半の時もあるしどこか1社がもつ時もあるし、いろいろだけど。」
「共同で出したものが権利になったら、その権利は誰のものになるんですか?」
「当然、一緒に出願したみんなのものよ。でも、あとで譲渡したりとかっていうこともあるし、実際には最終的にどこが維持していくかは出願人とは別の話なんだけどね。」
「そうなんですか…あ、それでこの件はもう一組コピーをとればいいんですよね。」
「そう。だんだん覚えてきたら、共願の件は最初にコピーしにいくときに必要な数だけとってくるようにできると思うけど、最初のうちは面倒だけどその都度コピーしに行ってね。その方が間違いは少なくてすむから。」
「あ、全然面倒だなんて思ってないですからいいですよ。」
夏子はコピー機のあるところに向かった。


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