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英英辞典あれこれ
ひとことで英英辞典と言っても実際には大きく分けて3種類あることを御存知でしょうか。
英語を母国語としない人を対象に作られた「外国人向け英英辞典」と英語を母国語とする人を対象に作られた「本国人向け英英辞典」。
タイプ別に見ると学習辞典と一般辞典があります。外国人向けのものはすべて学習辞典で一般辞典は存在しませんが、本国人向けのものは学習辞典と一般辞典の両方があります。
学習辞典と一般辞典と言われても何となくピンとこない人は、日本語の国語辞典を例に考えてみると分かりやすいかもしれません。学習辞典というのは小学生や中学生程度の学習段階にある子供向けに作られたもので、一般辞典は大学生以上の大人向けのものです。
母国語であっても、広辞苑と小学生用の国語辞典とでは難易度が全然違いますが、これと同じことが英英辞典にも当てはまるわけです。選び方を間違ってしまうと広辞苑クラスの英英辞典を使う羽目になりかねません。そこで、英英辞典の選び方と上手な活用法についてお話します。
この記事を書いたちょうどその頃、通訳翻訳ジャーナル2000年4月号が手元に届きました。辞書の特集です。アンケートから得られた愛用英英辞典のランキングは、上からLongman、COBUILD、Oxford、Longman (Activator)、Webster。
いずれも私自身愛用している英英辞典で、これが実務経験数年以上の翻訳者から得たアンケート結果ならば単に納得して終わりだったと思いますが、学習者からの回答としてはかなり驚きでした。
特に、Websterが入っているのは信じがたいことだったのです。Websterの辞書は本国人向け一般辞典の代表格ですから、これが学習者からのアンケートでランキングの第5位というのは驚きと言うほかありません。
一体どれだけの人が使いこなせているのだろうと思うと、はなはだ疑問です。
でも、どんな時に英英辞典を使うかという質問に対してあがっていた回答と、英英辞典を全く使わない人が全体の13%を占めているという数字を見て、このような結果になった理由が何となく分かりました。
これは、英英辞典を全く使えないか、難しいと感じながらも単語の日本語訳を得る上での助けにする程度で、英英辞典ごとの違いと特徴を知らずに選んでいる人が意外と多いことが反映された結果のような気がします。
その証拠に、学習者にはもっと活用されていてもよさそうな英英辞典が名前すら出ていません。そして、初学者では敷居が高すぎる(はずの)Websterがトップ5に入り、同じく本国人向け一般辞典のAmerican Heritageもおすすめに挙がっています。
ランキングの上位4つは外国人向け学習辞典ですから、人気が高いというのはある意味うなづけます。ただし、外国人向けでもレベルはいくつかありますので、自分に合ったものを選択できているかどうかは別問題です。
定義のわかりやすさという点で見れば、本国人向けの学習辞典の中には外国人向けのものより平易なものが多く存在します。
でも、外国人向け英英辞典の一番の利点は文法や用法など外国人が間違いやすいポイントを的確に押さえてあることです。本国人向けの学習辞典には、このような情報は含まれていないのが普通です。
参考までに、英英辞典によって定義がどのくらい変わるかを示す例を1つあげておきます。
例) penguin
本国人向け一般辞典
[American Heritage Dictionary of the English Language]
any of several flightless, aquatic birds of the family Spheniscidae, of the Southern Hemisphere, having webbed feet and wings reduced to flippers.
[Merriam-Webster Collegiate Dictionary]
any of various erect short-legged flightless aquatic birds (family Spheniscidae) of the southern hemisphere.
本国人向け学習辞典
[Scholastic Children's Dictionary](小学校中〜高学年程度)
A water bird of the Antarctic region that cannot fly. The penguin uses its wings as flippers for underwater swimming.
外国人向け学習辞典
[COBUILD English Learner's Dictionary]
A penguin is a black and white bird found mainly in the Antarctic. Penguins cannot fly.
[Longman Dictionary of Contemporary English]
an often large black-and-white seabird, esp. of the Antractic, which cannot fly but uses its wings for swimming.
いかがですか?
ずいぶんと違うことに驚きましたか?
プロが実務で使う英英辞典はともかくとして、学習者には学習辞典を選択する方が良いのは言うまでもありません。
Scholasticは挿し絵も多くアメリカの小学生が使う辞書としては定番です。アメリカには、「僕の生徒は本を読まずScholasticの辞書ばかり読んでいる」とこぼす(?)教師もいるくらい、子供にとっても馴染みやすいもののようです。
さて、英英辞典によって違いがあることが分かったところで、次は上手な選択方法です。
英英辞典は単語の持つ意味を調べる「だけ」のものという考えから抜け出し、生きた資料として使ってみるとよいでしょう。
利用する英英辞典は外国人向けのものであればどれでも良いと思いますが、大雑把に言っても(1)定義や説明、例文で使われる単語の数(2)定義と例文の書き方のスタイル(3)文法事項の内容で随分違いがありますから、このあたりを考慮して自分の目的に合ったものを見つけてみてください。
(1)は、おそらく英英辞典の難易度を左右する最も大きなポイントの1つです。
Longman系列の辞書で定義や例文が2,000語の範囲内で作成されていることをはじめとして、学習者向けの辞書では使用単語の数を制限しているのが普通です。
このため、「単語の意味を引いたら説明の単語が分からず、またさらに別の単語を引くはめになった」という追いかけっこのような問題はあまり発生しません。
(2)は学習者向けに限らず、辞書によってかなり違うものの1つです。
ネイティブ向けの辞書は「省略」が多く最低限の情報をできるだけ多く詰め込んでありますが、学習者向けのものには省略はあまり見られません。
たとえば助けるという意味のsaveを例にみてみましょう。
Webster Collegiate Dictionaryでは、to deliver from sin;to rescue or deliver from danger or harmなどの定義が出てきますが、ここでI saved himをI delivered from sin himと言い換えできるかというと、できません。
I rescued from danger or harm himもおかしいです。I rescued HIM from...としなければならないわけです。ネイティブ向けの辞書ではこのように目的語などを抜いた形で定義がされていることが多く、これが学習者にとっては意外に大きな問題となります。
一方、COBUILDのe-dictでsaveを引くと、If you save someone or something, you help them to avoid harm or to escape from a dangerous or unpleasant situation.と書かれています。この説明から、目的語をどこに入れるべきかということは一目瞭然です。
さらに、文法事項として、verb+noun, verb+noun+from+noun or the -ing form of a verbという注釈が付されています。
外国人が英語を理解して正しく使っていくためには、後者のスタイルの方が好ましいのは言うまでもありません。
上記のpenguinとsaveの定義からすでにお分かりかもしれませんが、COBUILD系の辞書の大きな特徴の1つに、定義が完全な文章になっているということが挙げられます。これだけでも学習者用の辞書としては十分注目に値します。
最後に(3)ですが、外国人学習者向けの辞書は「外国人を視点にした」文法事項の記載が多いのが特徴です。
たとえば、Longman Essential Activator (LEA)でABOUTを引くと "Don't use on to talk about books, films, etc that tell stories. Use it about more serious subjects or opinions."とあり、「〜について」にaboutを使う場合とonを使う場合の区別が書かれています。
このDon't use/Don't say...や XXX is more formal/informal than XXXといった文法注記はActivatorの特徴でもありますが、類語で困ったときの助けにもなります。
ちなみに、ネイティブ向けの学習辞典(子供用)は、文法事項の説明が学習者には不足もしくは全くない点を除けば、定義自体は分かりやすいものが多いです。
綺麗な挿し絵や写真が入っていることが多いため、遊びながら語学力を高める目的には向いています。少し余裕のある人であれば、タイプの違う2〜3種類の学習英英辞典を利用するようにしてもよいでしょう。今まで苦労していた英文ライティングもずっと楽になるのではないかと思います。
ここでpedalとpedestrianを例に英英辞典を学習と翻訳の両方に活かす方法をおはなしします。
PEDAL。ペダルとはどのようなものか考えてみると、(1)足で踏むタイプの装置である、(2)自転車や車などを動かす時に使うというくらいは思い付きますね。そこで、とりあえず知っている英単語を使ってこれを表現してみてください。たとえば、次のような感じです。
A pedal is a device that you can press. A pedal is used for operating a bicycle or a machine.
A pedal moves a machine.
このとき、正しい英文を書こうと悪戦苦闘する必要はありません。間違いや舌足らずの箇所が多ければ多いほど、学習の効果は高くなります。多少の誤りは気にせず、とにかく書いてみてください。そして一通り書いたところで英英辞典を引きます。
pedal a small part of a machine or vehicle that you can press down with your foot to operate the machine or make the vehicle move (Cambridge Dictionary of American English)
The pedals on a bicycle are the two parts that you push with your feet in order to make the bicycle move. (COBUILD)
これらの定義から、ペダルなどを足で踏む時は push something [press something down] with your foot/feet、自転車や車を動かすことは make something move と言えることが分かります。
このような定義を応用すれば、和英辞典だけでは難しく感じる文章でも簡単に表現することができるのです。
「この機械を動作させるにはペダルを踏んでください」であれば Press the pedal down with your foot to operate the machine、「このボタンを押すとハンドルが動きます」であれば The/this button makes the handle moveでよいわけです。
「ペダルを踏む」を英語で表現する場合、和英辞典で「踏む」を引くとstep on や tread on が載っています。でもこれだけではどの語句を選択すればよいのか分かりません。
また、和英辞典だけに頼っていると、英訳すべき文脈に合う語が載っておらず、お手上げということも珍しくありません。ところが、英英辞典の定義に含まれる情報を上手に活用することで、和英辞典からは得られない表現が可能になるのです。
大切なのは、たとえば「踏む」に1:1で対応する英語が何なのか考えることではなく、「ペダルを踏む」という動作を自然な形で表現することです。
英英辞典でpedalという英語の周囲にある表現を探り、pedalと一緒に用いられる動詞やフレーズを拾い出すことができれば、こうした自然な表現もかなりできるようになるのです。
英英辞典の定義から学んだ情報を別のファイルとして保管しておけば、それこそ生きた英語がぎっしり詰まった教材になるでしょう。
Walkerとpedestrian
PEDESTRIAN。pedestrian [ped- 足 + -ian 〜の人] は、街で車や自転車を使うのではなく歩いている人を指す言葉です。
そこで、とりあえず知っている単語でpedestrianとはどのようなものか書いてみます。たとえば、A pedestrian is someone who is walking in a cityといった具合ですね。
英英辞典にはどのように書かれているでしょう。
pedestrian a person who is walking, esp. in an area where vehicles go (Cambridge)
A pedestrian is a person who is walking, especially in a town or city, rather than travelling in a vehicle. (COBUILD)
要するに歩いている人を指すようですが、それならpedestrianとwalkerはどう違うのかと疑問を持つかもしれません。
そこで今度は、Longman Essential Activatorでpedestrianを引いてみます。すると、someone who is walkingという欄にpedestrianとwalkerの説明が書かれているではありませんか。
pedestrian someone who is walking in a town, instead of going by car, bus, bicycle etc.
walker someone who walks in the countryside for pleasure.
なるほど。 countrysideを歩く人がwalker、街中を歩いている人がpedestrianなのかと漠然とつかめます。
そして、「車で」「バスで」「自転車で」と言う場合はby car, by bus, by bicycleだということが分かり、walkerの定義からは walk for pleasureという表現が可能なのだということも分かります。
これを覚えておけば、たとえば「山を散策する」という時の「散策する」にwalk for pleasureを使うことができますね。
散策はpleasureだけのためにするものではないという突っ込みはさておき、いずれにしても和英辞典で「散策」や「散歩」を引いてwalk for pleasureを導き出すのは困難です。このような英語らしい表現は、英英辞典ならではのものでしょう。
蛇足ですが、中学の英文法で「歩いて、徒歩で」は前置詞onを使ってon foot、「車で」「バスで」などの場合は前置詞はby、いずれも名詞に冠詞を伴わないと習ったと思います。
でも、冠詞が不要なのはなぜか、徒歩の場合はonで乗物の場合はbyになるのはなぜかというところまで教わった記憶は、少なくともわたしにはありません。
慣用句として暗記させられたというケースのほうが、圧倒的に多いのではないでしょうか。
わたしも冠詞がないという状態に納得でき、曲がりなりにも理由付けができるようになったのは、ずっと後になってからのことでした。
英英辞典を使って上記のような学習訓練をしているときに、I've been on my feet all day という用例に遭遇したのがきっかけです。
このon one's feetはstandingとほぼ同じで、1日中立ちっぱなしだったという意味です。このとき、名詞footは複数形でfeetになっています。
当然といえば当然で、2本の足で立っていたのですからfootではなくfeetですが、問題はここからです。日本語では胴体から伸びている「脚」と靴を履く部分である「足」をひっくるめて「足」ということがありますが、英語のfootはlegの先端にある部分だけを指します。
英英辞典でfootを引いてみると、A foot is the part of the body at the bottom of the leg on which a person or animal stands(Cambridge)と書かれています。下線部からも分かるように、英語の発想では人間や動物はfootの上に立っている(立っている状態=頭から脚まで全体が2つのfootの上に乗った状態にある)ため、on one's feet=standingという意味になるのでしょう。
一方、「徒歩で」という時の足は、可算名詞として個々の足を指すわけではなく、「足というもの」を指す抽象名詞のようなもので、特定の足the footでもなければ不特定のa footでも複数の足feetでもありません。
抽象的な概念としての「足」の上にある状態なのでon foot=walkingになるのだと解釈しています。同様に、by carやby busなどのcarやbusも車やバスという概念で示される道具(手段)によってという意味ですから、冠詞を伴わずにby carとなるのは自然なことだと思っています。
話しを元に戻して英英辞典の定義ですが、自分で書いてみた定義と英英辞典の説明との違いが多ければ多いほど、学ぶべきこともたくさん出てきます。そして、これを応用すると和文英訳の品質向上にもつながるのです。
たとえば、「お客に料理を出す」を英語で表現する場合、みなさんならどのように辞書を引きますか?和英辞典で「料理」や「出す」を引き、ぴったり合いそうな動詞と例文を探すのでしょうか。
実はここでも英英辞典が重宝するのです。客に料理を出すところと言えば、喫茶店やレストランが思い浮かびますね。つまり、たとえばrestaurantという単語を英英辞典で引けば、その定義の部分に「料理を出す」という表現が含まれている可能性が高いわけです。
事実、COBUILDでrestaurantを引くと、In restaurants your food is usually served to you at your table by a waiter or waitress という表現が見つかります。そう、「客に〜を出す」部分はserve to+人です。そして、定義文にはwaiterやwaitressが含まれているではないですか。
これを見て、最初は思い付かなかったwaiterなどの関連語(「料理を出す」ことに関連のある語)の選択肢が増えます。これらの語の定義にも「料理を出す」が含まれているかもしれないと推測し、引いてみましょう。A waiter is a man who works in a restaurant, serving people with food and drink. 見事、serve+人+withが見つかります。
あれ?さっきはserve to+人だったのにと思ったら、主語を比べてください。foodが主語の場合はbe served to+相手、人が主語の場合はserve+相手+withですね。
どうやらこれで「お客に料理を出す」という時の動詞はserveで良いらしいということが分かりますし、適切な前置詞も分かります。あとは、文脈に応じて主語を決め、文章を作ればよいわけです。
意味の分からない単語を引く場合と違って、レストランは客に料理を出すところだという背景知識があるため、serveの訳を知らなかったとしても、これが「料理を出す」を意味するのだということは容易に分かります。
和英辞典を使うことがあるとすれば、せいぜいrestaurantの綴りを確認するくらいでしょうか。
この方法でキーになるのは、表現したい文章と関連のある語をどれだけ連想できるかです。ひとつでも思い付けば、あとはその単語の定義からイモヅル式に関連語が見つかることが多いですが、LongmanのEssential Activatorなど関連語をまとめた学習英英辞典を使う方が便利なこともあります。やりやすい方法で試してみてくださいね。
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